2008年12月1日(月)

  ◆律儀な遺伝◆
 異変に気づいたのは、「北堀真希」と口にしたときだった。NHK大河ドラマ「篤姫」に出ている女優である。すかさず連れあいから、「堀北真希だよ。その間違いは恥ずかしいよ。倖田來未のことも、倖田未來って間違えてたよね」と指摘される。
 言われてみれば、このところ、言葉が入れ替わってしまう間違いが多いのだ。株式公開買い付けを意味する「TOB」を「TBO」と覚え、「AO入試」は「OA入試」だと思い込んでいた。
 これがショックなのは、記憶力の衰えを突きつけられたからではなく、母の間違い方とまったく同じだからだ。母が「ガルシア=マルケス」を「マルシア=ガルケス」などと呼ぶたびに、何できちんと覚えられないのだ、と私はあきれてきた。本人は正確に覚えているつもりなのだと、今の私にはよく理解できてしまうのが悔しい。
 不思議なのは、「アナグラムのように言葉を入れ替えて覚えてしまう」という性質が、律儀に遺伝することだ。わが間違いを容赦なく指摘した連れあいも、彼女の父親から奇妙な癖を受け継いでいる。タンスの引き出しを必ず閉め忘れたり、片づけるはずの食器を一つだけ残したりと、最後の締めの行為が抜け落ちるのである。何年も離れて暮らしているのだし、日常の習慣が擦りこまれて似てきたとは思えないので、これも遺伝子のなせるわざなのだろう。
 避けようもなく、固有名をひっくり返して覚える定めだったのだと、運命のせいにしておこう。
(東京新聞 2008年11月7日付夕刊1面「放射線」)

 後日、このエッセイを読んだ母親から、「私も北堀真希だと思ってたのよ」と電話があった……。
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by hoshinotjp | 2008-12-01 23:57 | 身辺雑記