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 これまでの人生の中で、私には「師匠」と呼ぶべき人が何人かいるが、実際に当人に向かって「師匠」と呼んでいるのは、小説家としてデビューする以前に師事していた、字幕翻訳家の太田直子さんだけである。いわゆる「ポスト戸田奈津子」の字幕翻訳者のお一人だ。
 その師匠が、新書を上梓した。題して、「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」(光文社新書)。字幕翻訳という仕事について、字幕業界について、そして日本語について、言葉のプロが大胆につづったエッセイ集だ。
 これがめちゃくちゃ面白い! 何しろわが師匠は、字幕屋とは仮の姿、しかしてその実体は稀代の名エッセイスト。とにかく笑いを取らなくては気が済まない人なので、この新書でも笑い爆弾がいたるところに仕掛けられてある。それは突然、前触れもなく爆発するので、読むほうは無防備、爆笑させられたあとで、うっかりはまってしまったことを歯ぎしりする次第。
 字幕を仕事にしているから、という以前に、師匠は文学の人である。だから言葉の感覚に敏感である。そのことがそこかしこで伝わってくる、きわめて端正な文章でもある。的確でわかりやすく、内容が濃い。しかも笑える。端正な文章でもって、一芸としての笑いを潜ませる。
 私にとって師匠であるというのは、フリーで仕事をしていくうえでのプロ魂を太田さんから学んだからだ。そのプロ魂がどういう態度を指すのかも、この新書を読むとよくわかる。私は太田さんをエッセイの師匠にもしたいのだけど、この一芸ばかりはどうがんばっても真似できない。
 ちょいと立ち読みしていただければ、この本の魅力はすぐわかると思うが、本屋に行くまで我慢ができない、今すぐ太田さんの文章に触れてみたいという人は、字幕に関するエッセイ「酔眼亭夜話」をご覧あれ。

2.28追記 通称「銀スミ」、何と発売から1週間で大増刷決定! 身びいきでも誇張でもなく、ちまたでは評判がいいようです。そうだろう、そうだろう。
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by hoshinotjp | 2007-02-27 21:01 | 文学
 ルイス・ブニュエルのDVDボックスの第3巻がついに発売になった。これで全3巻が出そろったことになる。
 9作品収録のこのボックスセットの特徴は、どの作品もブニュエルの精髄を抽出したといえる異端的で罰当たりな作品ばかりであること、代表作であるにもかかわらず、権利の問題でなかなか映画館でもビデオでも見ることのできなかった作品であることだ。
 特に第3巻は、幻の傑作「ロビンソン・クルーソー」が収録されている。これは日本では、作られた当時(1950年代)に公開されたきりであり、全作品上映の特集を除くと、半世紀ぶりくらいに見られることになるのではないか。
「ロビンソン・クルーソー」という題に騙されてはいけない。これはあの冒険小説の映画化ではない。変人の妄想と生態を、黒いユーモアとともにまじめに描いた作品である。私はメキシコで見て、ロビンソンのとち狂った衣装と言動に、映画館で笑いが止まらなかった。この笑いは、理由や根拠のない、じつに爽快かつアナーキーな笑いである。
 さらに、かつてACTミニシアターではよく上映されていた、いかがわしいドキュメンタリー「糧なき土地」、それにこれも日本では見られなかった「それを暁と呼ぶ」。
 この他、第1巻は「皆殺しの天使」、第2巻は「砂漠のシモン」「ビリディアナ」という、メキシコ時代の、おそらくブニュエルが最も気に入っていただろう3部作が見られる。この3作は、グスタボ・アラトリステというメキシコの富豪がプロデューサーとなり、金に糸目をつけず、ブニュエルは自由に撮ることができた。ただし、アラトリステの妻である女優シルビア・ピナルを主演とするという条件だけはついて。3作目の「砂漠のシモン」を撮っている最中にアラトリステにカネがなくなり、撮影は突如打ち切られ、映画も唖然とする結末をつけられて、45分という短い作品になったことは有名だ。それでもこの作品はカンヌで賞を獲っている。ちなみに、この作品の字幕は私が担当している。もう10年近く前の映画祭用につけたものだけど。
 これだけの充実したラインナップをそろえ、なおかつ、かつてない情報量を誇るリブレットを書き上げたのは、友人の金谷重朗氏である。彼はスペイン、メキシコに映画の勉強で留学しており、その際中に何人ものブニュエルゆかりの映画人や俳優にインタビューした、日本のブニュエル研究の圧倒的第一人者である。そのネタをなぜ発表しないのかとやきもきするほどだったが、いまここに一気に明かされた。ちなみに、第3巻のリブレットでは、私がかつて「ユリイカ」のブニュエル特集号に書いた短篇小説「トレド教団」が収録されている。
 これらの作品は、この機会を逃したら、もう数十年は日本では見られまい。金谷氏の執念のおかげである。少し値は張るけれど、映画好きであれば、このチャンスを逃すのは人生における大きな損失となるだろう。
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by hoshinotjp | 2007-02-24 23:59 | 映画
 先週末から今週初めにかけて、休暇で出かける。
 その旅行を挟んで、新しく買ったパソコンの設定に四苦八苦している。WindowsのVISTAを買ったのだが、いまひとつ感覚がつかめず、おっかなびっくり、前のパソコンからデータを移行してソフトを導入しているものだから、なかなか作業が進まない。VISTA対応でないソフトを入れると、パソコンがとち狂った行動を勝手に始めたりする。修正したくとも、まだネット上には情報がほとんどないし。本当は新しいパソコンを半年後ぐらいに買いたかったのだが、事情で今買うことになったのだ。早く設定が終わらないと、仕事にならない。いろいろと紹介したい事柄があるのに。ようやく今日、そろそろメドがついてきたところ。
 とはいえ、前のパソコンが5年前のものだから、新パソコンは大変快適である。あれこれ余裕がある。USBもやっと2.0になったし。
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by hoshinotjp | 2007-02-23 23:32 | 身辺雑記
 1月に気合いを入れ続けた反動で、やや気が抜け気味。来週はちょっとだけ休暇を取る。
 近々、パソコンを一新するのに伴い、ワイヤレス(つまり接続コードのない)の、少々値の張るキーボードとマウスを先に購入したところ、これが素晴らしく調子がよい。使い勝手がよくて、手の疲れが全然違う。

 柳沢厚生労働大臣の「産む機械」発言に対する批判が、ある時点で急に終息したのはなぜか? その後も、国会では異様な発言が続き、野党はその気であれば追求し続けてもおかしくなかったと思うのだが、そうはしなかった。たぶん、野党は安倍政権を生殺しのまま参議院選に持ち込みたいからだろう。柳沢伯夫が内閣にいる限り、ちまたのイメージは悪いまま保たれる、と計算しているからではないか。政権の側は、辞任を免れて、ダメージを抑えられたと判断しているのだろうが。
 要するに政治の舞台では、あの発言は政治的駆け引きの材料として終わったわけだが、政治家、ひいてはそれを選ぶ有権者によって構成されるこの社会の、根幹のメンタリティを考えるためには、この件はもっと掘り下げられる必要がある。
 だから、メディアまで政治と一緒になって問題を終息させてしまうのは、私には腑に落ちない。まるで与野党の戦略に乗って、その片棒を担いでいるかのようである。あの発言は失言などではないと感じるのであれば、発言に潜むメンタリティがマジョリティに実は共有されていてごく自然なこととされている風土をもっと探ろうとするべきではないのか。
 と、メディアを批判しつつ、一方で、メディア批判は楽なのだ、とも思う。何かあるとメディアを叩くのは、今や一つの流行となっている。わかりやすく他人のせいにできる手段でもある。メディアは受け手がいなくては成り立たない。メディアを批判するときは必ず、返す刀で受け手である自分たちをも批評しなくてはならない。
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by hoshinotjp | 2007-02-15 22:43 | 政治
 当サイトのメールアドレスを若干、変更する(トップページ下部にあり)。スパムメール対策にときどきマイナーチェインジをしていくつもりで作った今のメールアドレス、さっそく変更。今後も適宜、変えていくつもり。
 おかげでここ一両日はスパムメールが来ずに済んでいる。まあ時間の問題だけど。
 あと、先週の話だけど、こんなことが決まった。創刊時から憧れの植物雑誌「PLANTED」にまさか書けるなんて、望外の喜び。小説ともエッセイともつかない、フィクションの読み切りを、他の植物アーティストの方とコラボレーションで書いていくことになりそう。とにかく、この書き物はわがままに個人的に楽しむ場所とする。
 プランティスタ(plantista植物道家、私の造語)としての心の師の一人でもあるいとうせいこうさんにお会いして緊張した。実は何年も前に1、2度お会いしたことはあるのだけど(いとうさんも覚えていらしてびっくり)。
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by hoshinotjp | 2007-02-08 20:05 | お知らせ
 通常授業のレポート読みと成績つけが終了。「マイナー性」の講義のレポートは、質的にも量的にもずっしりと読み応えがあった。私自身が考える上でいろいろなヒントを見つけることができた。
 非常事態がこれで解除され、ほぼすべての大学業務が終わった。心地よい、もぬけの殻。残すは研究室を引き払うことと、卒業式ぐらいか。
 ちょうど宅配便で届いた、サントリー「プレミアムモルツ<黒>」で、個人的に打ちあげ。プレミアムモルツをケースで買って、そこについていたシールを応募したら、当選したのだ。まだ非売品の限定生産品だが、めちゃくちゃうまい! 我を忘れるほど美味い! 至福のひとときであった。
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by hoshinotjp | 2007-02-04 23:43 | 身辺雑記
 すべての卒論(小説)審査がきのうで終了。この約10日間、まるで小説を脱稿する直前の1週間であるかのように全身全霊を傾けたので、精根尽き果てる。睡眠不足もピークに達している。今年卒論を担当した学生は、この3年間、関わってきた学生がほとんどであり、その小説を読むことは学生たちの3年間を感じることでもあり、ちょっと体験したことのない感慨があった。
 しかしまだ、授業の成績つけが残っている。気を抜かずに乗り切らねば。
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by hoshinotjp | 2007-02-02 21:29 | 身辺雑記