2010年 07月 10日
2010年7月10日(土) |
今日から横浜のシネマ「ジャック&ベティ」で始まった岡村淳さんのドキュメンタリー映画祭(16日まで)。私は、今現存する世界中のドキュメンタリー映画作家で、最も最前線にて、最も妥協なく闘っているのが、岡村さんだと思っている。こんなに妥協なく筋を通している表現者を私は他に知らない。
でも岡村さんの作品は、一見、そんな過激には見えない。ちまたの目からこぼれ落ちる人々を、きわめて辛抱強く長い時間をかけて追い続ける。とてつもなく優しく、かつ打たれ強いまなざしで。そうして対象となる人との信頼が築かれていくさままでもが、映像に収められる。
岡村さんの長篇全作品が一挙に映画館で上映される機会は、じつは初めてだ。これは画期的な出来事なのだ。この機会を逃さず、ぜひとも岡村ワールドと、岡村さんという人間を体験してほしい。すべての上映で、岡村さんのトークがある。このとてつもない魅力を持った岡村さんを生で見るだけでも、価値があるぐらいだ。誰にも似ていない異才である。
どの作品もお薦めだが、ひとつだけ見るとしたら、「あもーる・あもれいら」2部作は必見だ。これは岡村作品のひとつの到達点だ。また、長篇第一作である「郷愁は夢のなかで」も強烈な作品。自作の浦島太郎を一人で誰にともなく語り続けた孤独なブラジル移民の記録だ。この作品には、岡村さんのすべてが詰まっている。「ブラジルの土に生きて」は、前半は夫、後半は妻が主人公。私は後半の主人公である敏子さんに私淑した。この方の生きざまは、本当に人に勇気を与えてくれる。……と書いているとすべての作品に言及してしまいそうなので、詳しくは上映の案内を見てください。
さっそく私も今日の夜の回の『下手に描きたい』を見て、即興で岡村さんとのトークをしてきた。
ネタバレも何もない映画なので、率直に感想を書く。トークで話しそこなかったことも。話してしまえばよかったのに日記。
画家の森一浩さんが、その場で抽象画を描く「ライブ」の様子が記録されるこの作品。岡村作品初の「密室劇」で(舞台と言ってもいいかも)、ただならぬ緊迫感が漂う。そして絵を描く合間に、森さんが絵と人生を語る。
森さんの語る絵画の話は、私の考える文学と重なるところがあって、そこは人ごとでなく感じたのだが、じつは森さんの語る人生も、人ごとではなかった。ブラジル移民のことしてブラジルで生まれ、5歳で日本に移り住んだ森さん。移民の子ではないが、私はアメリカで生まれ、2歳半で日本へ移る。森さんのようにいじめられはしなかったが、自分がアメリカで生まれたことを口にしてはいけないという怯えとともに子ども時代を過ごした。違っていることはまずい、何とか「上手く」合わせていかないといけない。この「上手く」の対としてあるのが、「下手に描きたい」の「下手」だ。その意味で、私も「上手く」生きることから脱落するために、小説を書いている。つまり、小説を書くことが、「下手」であることなのだ。
そんなわけで、やたらとシンクロしてしまう作品だった。ただ、絵を描いている場面を撮しただけとも言える作品なのに、その奥行きははてしなく深い。岡村作品の醍醐味である。
でも岡村さんの作品は、一見、そんな過激には見えない。ちまたの目からこぼれ落ちる人々を、きわめて辛抱強く長い時間をかけて追い続ける。とてつもなく優しく、かつ打たれ強いまなざしで。そうして対象となる人との信頼が築かれていくさままでもが、映像に収められる。
岡村さんの長篇全作品が一挙に映画館で上映される機会は、じつは初めてだ。これは画期的な出来事なのだ。この機会を逃さず、ぜひとも岡村ワールドと、岡村さんという人間を体験してほしい。すべての上映で、岡村さんのトークがある。このとてつもない魅力を持った岡村さんを生で見るだけでも、価値があるぐらいだ。誰にも似ていない異才である。
どの作品もお薦めだが、ひとつだけ見るとしたら、「あもーる・あもれいら」2部作は必見だ。これは岡村作品のひとつの到達点だ。また、長篇第一作である「郷愁は夢のなかで」も強烈な作品。自作の浦島太郎を一人で誰にともなく語り続けた孤独なブラジル移民の記録だ。この作品には、岡村さんのすべてが詰まっている。「ブラジルの土に生きて」は、前半は夫、後半は妻が主人公。私は後半の主人公である敏子さんに私淑した。この方の生きざまは、本当に人に勇気を与えてくれる。……と書いているとすべての作品に言及してしまいそうなので、詳しくは上映の案内を見てください。
さっそく私も今日の夜の回の『下手に描きたい』を見て、即興で岡村さんとのトークをしてきた。
ネタバレも何もない映画なので、率直に感想を書く。トークで話しそこなかったことも。話してしまえばよかったのに日記。
画家の森一浩さんが、その場で抽象画を描く「ライブ」の様子が記録されるこの作品。岡村作品初の「密室劇」で(舞台と言ってもいいかも)、ただならぬ緊迫感が漂う。そして絵を描く合間に、森さんが絵と人生を語る。
森さんの語る絵画の話は、私の考える文学と重なるところがあって、そこは人ごとでなく感じたのだが、じつは森さんの語る人生も、人ごとではなかった。ブラジル移民のことしてブラジルで生まれ、5歳で日本に移り住んだ森さん。移民の子ではないが、私はアメリカで生まれ、2歳半で日本へ移る。森さんのようにいじめられはしなかったが、自分がアメリカで生まれたことを口にしてはいけないという怯えとともに子ども時代を過ごした。違っていることはまずい、何とか「上手く」合わせていかないといけない。この「上手く」の対としてあるのが、「下手に描きたい」の「下手」だ。その意味で、私も「上手く」生きることから脱落するために、小説を書いている。つまり、小説を書くことが、「下手」であることなのだ。
そんなわけで、やたらとシンクロしてしまう作品だった。ただ、絵を描いている場面を撮しただけとも言える作品なのに、その奥行きははてしなく深い。岡村作品の醍醐味である。
by hoshinotjp
| 2010-07-10 23:31
| 映画