2010年 07月 03日 ( 1 )

 『俺俺』 収録外のまえがき その2「テーマについて」

 基本的に小説はどのように読まれても構わないのだが、私が書くに当たって考えたことは、ちまたですでに出回っている言葉で言えば「生きづらさ」についてである。
 ここ数年、私に取り憑いて離れないテーマは、自殺の問題である。年間の自殺者が3万人を越える年が10年以上続いているが、3万人の背後には、自殺の瀬戸際にいる人がその10倍はいると言われている。さらに、その瀬戸際の近くにいる人はもっと多いだろう。そうやって考えていくと、誰もが自殺の渦のすぐそばに立たされていることがわかる。
 ほとんどの自殺のケースでは、自分の意思で死を選択しているのではなく、死以外の選択肢を奪われ、追いつめられるようにして死へ至っている。
 にもかかわらず、自殺した者たちは、社会の中で「負け組」と見なされる。そのことが自死遺族を苦しめる。じつは多くの人が自殺の近くにいながら、自殺した人を「負け組」として自分たちとは切り離そうとするのは、さもないと自分たちも自殺の渦に巻き込まれそうだからだ。だが、現実には、苦しい者同士がどんなに蹴落とし合ったところで、「勝ち組」には上がれない。この図式を作った「勝ち組」たちは、そんなことを許しはしない。
 この、苦しい立場の者が、さらに苦しい立場の者を蹴落とすことで、苦境から這い上がろうとする、という図式が、今の社会の「生きづらさ」を支えていると、私は思う。苦しい者同士が、互いに貶め合う競争社会。それが今の日本社会の風土だ。「自殺」とは、自分たちが殺し合う、という意味なのだ。
 文字通り、自分たちが殺し合う社会を、ちょっと極端にすることで目に見える形にしてみたのが、この小説だ。
 そんな負のスパイラルから抜けるには、どうしたらいいのか? 私自身が何とかそこにたどり着きたかった。その過程が、この小説を書く過程そのものだと言える。
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by hoshinotjp | 2010-07-03 22:05 | 文学